後頭下筋群に問題が生じると、からだにどんな不具合が起きる?─首こり・頭痛・めまいと“首の土台”の関係─

後頭下筋群と首こり・頭痛・めまいの関係をわかりやすく説明するイメージイラスト

スマホやパソコンをしているとき、ふと気づくと「アゴが前に出ていて、首のつけ根がじんわり痛い」。
夜になると、後頭部がじーんと重くなってきて、目の奥までだるい。
急に立ち上がると、ほんの一瞬「ふわっ」とする──。

整体りびるどにも、こういった訴えで来られる方はとても多いです。
首そのものより、「首と頭の境目」あたりに”芯のコリ”のような感覚を持っているケースが目立ちます。

実はこのあたりに、後頭下筋群と呼ばれる、とても小さくて繊細な筋肉の集まりがあります。
ここは単なる「首の筋肉」ではなく、

  • 頭の向きや角度を微調整する
  • 目や耳(バランス感覚)と連動して、からだの位置を脳に伝える
  • 姿勢のセンサーとして働く

といった、構造 × 神経 × 感覚の要が集まる場所です。

今日はこの後頭下筋群に焦点を当てて、

  • どこにあるのか
  • どんな役割をしているのか
  • 乱れるとどんな不調が出やすいのか
  • 日常でどうケアしていけばいいのか

を、理学療法士の視点からお話していきます。


1.後頭下筋群って?

まずはざっくりイメージから。

後頭下筋群は、頭の骨(後頭骨)と、首のいちばん上の骨(第1・第2頚椎)とのあいだにある、小さな筋肉の集まりです。

  • 大後頭直筋
  • 小後頭直筋
  • 上頭斜筋
  • 下頭斜筋

といった名前の筋肉が、頭のすぐ下にぎゅっと集まっています。
場所でいうと、「首のつけ根を指で押したときに、いちばん奥の方で反応するところ」に近いイメージです。

後頭下筋群のざっくりした役割

  • 頭を「ほんの少しだけ」うなずかせる(こくっと小さく頷く動き)
  • 頭を左右に、細かく方向づける
  • 目線の高さと頭の角度をそろえる
  • 体が傾いたときに、頭だけまっすぐに保とうとする

つまり、「頭のジンバル(揺れ補正装置)」のような役割をしていると考えるとわかりやすいかもしれません。

日常生活で言えば、

  • スマホの画面にピントを合わせる
  • 車の運転中、ミラーと目線を素早く切り替える
  • 人と話すときに、相手の目を自然な角度で見る
  • デスクワークで、画面をのぞき込みすぎないように頭を支える

こうした場面の裏側で、後頭下筋群はこっそりと働き続けています。


2.少し詳しく後頭下筋群について解説

ここから少しだけマニアックに、でもできるだけイメージしやすく解説していきます。

(1)どこをまたいでついている?

後頭下筋群は主に、

  • 後頭骨(頭のうしろ側の骨)
  • 第1頚椎(環椎)
  • 第2頚椎(軸椎)

をつなぐように走っています。

この3つの骨でつくられる、

  • 頭と首の境目の関節(後頭骨–第1頚椎)
  • 首の上の方の回旋の関節(第1頚椎–第2頚椎)

の動きを、すごく繊細にコントロールするのが後頭下筋群です。

「大きく動く」というよりは、**ミリ単位で角度や位置を合わせる”微調整担当”**といったイメージです。

(2)姿勢保持での役割

頭はボーリングの球くらいの重さがあります。
それを細い首の上に乗せて、しかも目線やバランスを保ちながら動かす必要があります。

そのときに、

  • 表面の大きな筋肉(僧帽筋や胸鎖乳突筋など)が「ざっくり頭を支える」
  • 奥の小さな筋肉(後頭下筋群など)が「細かい位置を調整する」

という役割分担が行われています。

特に、スマホやPC作業でアゴが前に出る姿勢が続くと、
頭が前方にずれた分だけ、後頭下筋群はずっと引き延ばされながら働くことになります。

これが続くと、

  • 「首のつけ根の芯が痛い」
  • 「後頭部だけいつも重い」

といった、なんとも言えないコリ感につながりやすいのです。

(3)神経と感覚の”センサー”としての顔

後頭下筋群は、ただ縮んだり伸びたりするだけの筋肉ではありません。

2000年代以降の解剖学的な研究で、
このあたりの小さな首の筋肉には、筋紡錘(きんぼうすい)というセンサーが非常に高密度に存在することが報告されています。SpringerLink

筋紡錘は、

  • 「今どれくらい伸びているか」
  • 「どれくらいの速さで伸びているか」

といった情報を、神経を通じて脳に送り続けるセンサーです。

特に後頭下筋群のような深部の首の筋肉は、

  • 頭と首の位置
  • 目の動きとの連携
  • バランスを保つための微調整

といった情報を、繊細に脳へ伝える役割があります。MDPI

つまり後頭下筋群は、

「構造(骨をまたぐ) × 神経(センサーで情報を送る) × 感覚(自分の頭の位置を感じる)」

をつなぐ、とても重要なハブのような存在だといえます。


3.後頭下筋群が乱れると出やすい不調

では、この後頭下筋群のコンディションが乱れると、どんな不調が出やすくなるのでしょうか。
「全部が後頭下筋群のせい」というわけではありませんが、影響が混ざっていることが多い症状をいくつか挙げます。

(1)首のつけ根〜後頭部のコリ・頭痛

いちばん多いのが、

  • 首のつけ根の奥の方が重だるい
  • 後頭部の片側だけがじーんと痛い
  • 長時間のPC作業後に、後頭部から目の奥にかけて疲れる

といったパターンです。

構造的には:

  • 頭が前に出る
  • 上を向く角度が減る
  • 後頭下筋群は、伸ばされたまま微妙に力を入れ続ける

という状態が続きます。

すると、

  • 血流が悪くなる
  • 乳酸などの代謝物がたまりやすくなる
  • 神経が過敏になり、痛みとして感じやすくなる

という流れが生まれます。

最近の研究やレビューでも、上位頚椎まわりの関節や筋肉へのアプローチ(手技療法や運動療法)が、首由来の頭痛(頚性頭痛)の改善に役立つことが報告されています。Headache Journal+1

つまり、「後頭部の頭痛は、頭ではなく首の一番上が関わっていることも多いですよ」ということですね。

(2)目の疲れ・ピントが合いにくい感覚

後頭下筋群は、目の動きとの連携にも深く関わっています。

  • 目線を横に動かす
  • 細かい文字を追いかける
  • 遠くと近くを行き来させる

こうしたとき、頭と目がバラバラに動いてしまうと、脳は情報処理に余計なエネルギーを使います。

その際、後頭下筋群のセンサーの働きが乱れていると、

  • 目は動いているのに、頭の位置がうまく把握できない
  • 脳が「今どこを見ているか」を認識しにくい
  • 結果として、目の奥の疲労感や頭重感が増す

といった状態につながりやすくなります。

(3)ふわっとするめまい・不安定感

後頭下筋群のセンサーからの情報は、耳の三半規管からの情報と一緒に、脳で統合されます。

  • 頭の角度・位置(後頭下筋群などの深部筋)
  • からだの揺れ(足裏や関節の感覚)
  • 前庭(耳の奥のバランス器官)

これらの情報の「つじつま」が合わなくなると、人は **「ふわっとする」「なんとなく地に足がつかない」**といった感覚を覚えます。

最近のレビューでも、慢性的な首の痛みがある人では、首まわりのセンサー(固有受容感覚)が乱れ、姿勢のコントロールやバランスに影響が出ることが指摘されています。SpringerLink+1

もちろん、めまいの原因はたくさんありますが、
「検査では異常なしと言われたのに、ふわっと感だけ続く」というケースでは、後頭下筋群を含む首のセンサーの乱れが関係していることも少なくありません。

(4)ストレートネック・猫背の固定化

後頭下筋群が硬くなり、いつも同じパターンでしか働かなくなると、

  • アゴが前に出たまま戻りにくい
  • 背中を伸ばしても、首のつけ根だけ詰まる感じがする
  • 上を向くとすぐにつっぱる

といった状態が「当たり前の姿勢」として脳に登録されてしまいます。

これはまさに、**構造(骨の位置) × 神経(クセづいた使い方) × 感覚(これが普通だと思い込む)**がセットになって起こる現象と言えます。


4.自分でできる“ちょいケア”と、プロに任せるライン

ここからは、ご自宅でできる範囲のセルフチェックと、負担になりにくい簡単ケアを紹介します。
※高血圧・めまいが強い・頚椎の手術歴がある方は、無理をせず専門家に相談しながら行ってください。

(1)簡単セルフチェック

チェック①:小さな「うなずき」はスムーズ?

  1. 椅子に浅く座り、背すじを軽く伸ばす。
  2. そこから 「はい」とうなずくように、アゴを2〜3cmだけ引く
    • このとき、のどぼとけが大きく動かないように。
  3. 首のつけ根〜後頭部のあたりに「詰まり感」や「ひきつれ」を感じないか観察する。
  • 後頭部だけがカチカチに感じる
  • 動かせる角度がとても小さい
  • すぐにだるくなる

といった場合、後頭下筋群まわりが固まり気味かもしれません。

チェック②:仰向けでの「後頭部の乗り方」

  1. 仰向けになり、枕またはバスタオルを薄めに敷く。
  2. 目を閉じて、後頭部がどこに一番重く乗っているかを感じてみる。
  • 後頭部のごく一点に集中して当たる
  • 首のつけ根が浮いていて、力を抜くと不安になる
  • どこに乗せていいか分からない感じ

がある場合、頭と首の「乗せ方」がうまくいっていないサインの一つです。


(2)ライトなセルフエクササイズ・ストレッチ

ケア①:テニスボールで「ふわっと支える」後頭部リリース

  1. 仰向けになり、テニスボールまたは少し柔らかめのボールを2つ用意。
  2. タオルでくるんで、**後頭部と首の境目(頭蓋骨のすぐ下)**に左右1個ずつ当てる。
  3. 目を閉じて、30〜60秒ほど、ただ呼吸に意識を向ける。
    • 強く転がしたり、押しつぶしたりしない。
    • 「置いてもらっている」程度の軽い圧にとどめる。

ポイント:

  • 「痛気持ちいい」を通り越して「イタすぎる」はやり過ぎです。
  • めまい感や気分不良が出る場合はすぐ中止してください。

後頭下筋群周辺の皮膚・筋膜にやさしい圧を入れることで、センサーからの入力を”リセット”しやすくするイメージです。

ケア②:首の奥のうなずきトレーニング(超ライト版)

  1. 仰向けになり、枕を低めにする。
  2. 喉の前側ではなく、「耳の後ろ〜首のつけ根あたり」を意識しながら、
    アゴを2〜3cmだけゆっくり引く → 戻すを行う。
  3. 5〜10回を目安に。呼吸は止めず、ふんわり続ける。

この動きは、後頭下筋群と一緒に「深層の頚部筋(深い首の筋肉)」を目覚めさせる練習になります。

2021年に発表された研究では、深部頚筋(いわゆる”首のインナーマッスル”)のトレーニングが、慢性的な首の痛みや姿勢の改善に役立つことが報告されています。PubMed

また、2025年のシステマティックレビューでも、首まわりのセンサー(センサリモーターコントロール)を鍛えるトレーニングが、慢性の首の痛みに対して一定の効果を持つとされています。mjssm.me

つまり、「首の奥の小さなうなずき」は、痛みだけでなく、姿勢やバランスの改善にもつながる可能性があるということですね。


(3)ちょっと補足のQ&A

Q.このケアは毎日やってもいいですか?
→ はい、痛みやめまいが出ない範囲であれば、1日1〜2セット程度を目安に、コツコツ続けるのがおすすめです。

Q.どれくらいで変化が出ますか?
→ 個人差はありますが、
「終わったあとに首まわりの”呼吸のしやすさ”が少し変わる」
「後頭部の圧のかかり方が変わる」
といった、小さな変化が目安になります。

大きな変化というより、”居心地のよさ”がじわじわ変わっていく感覚を大事にしてみてください。


(4)プロに任せるラインの目安

次のような場合は、セルフケアだけに頼らず、一度専門家(医師・理学療法士・整体など)に相談することをおすすめします。

  • 今まで経験したことのないような、突然の激しい頭痛
  • 片側の手足のしびれ・脱力を伴う
  • 発熱・嘔吐・強いめまいを伴う
  • 交通事故や転倒など、首に強い外力が加わったあとからの症状
  • 数週間セルフケアを続けても、痛みや違和感がまったく変わらない

まずは命に関わる病気ではないかどうかを医療機関で確認し、そのうえで「使い方・感覚のクセ」を整えていくのが安全な流れです。


5.まとめ

最後に、今日のポイントを整理します。

  • 後頭下筋群は、頭と首の境目にある小さな筋肉の集まり。
    頭の向きや角度をミリ単位で調整し、目や耳との連携も担っている。
  • 後頭下筋群には筋紡錘というセンサーが高密度に存在し、
    頭と首の位置情報を脳に送り続ける「姿勢センサー」的な役割を持つ。
  • この筋群のコンディションが乱れると、
    • 首のつけ根〜後頭部のコリ・頭痛
    • 目の奥の疲れ・ピントが合いにくい感覚
    • ふわっとするめまい・不安定感
    • ストレートネックや猫背の固定化
    といった不調が、「構造 × 神経 × 感覚」が絡み合って起こりやすくなる。
  • セルフケアとしては、
    • テニスボールなどを使ったやさしい後頭部リリース
    • 仰向けでの小さなうなずきトレーニング(首の奥の筋肉を目覚めさせる)
      が、日常的な”ちょいメンテナンス”として有効。
  • 強い頭痛や神経症状を伴う場合は、セルフケアにこだわりすぎず、
    医療機関や専門家に相談するラインを見極めることが大切。

「後頭下筋群」という名前はマニアックですが、
実は毎日の姿勢・目線・バランスを陰で支えている、縁の下の力持ちです。


6.おわりに

年齢を重ねてくると、

  • 「首のつけ根が重いのは、もう歳だから仕方ない」
  • 「頭痛持ちは体質だから、うまく付き合うしかない」

と、自分のからだに対して少しあきらめモードになってしまうことがあります。

でも、からだは本来、何度でも「使い方」を更新できる構造をしています。
センサーとして働く後頭下筋群のような小さな筋肉たちも、
正しい刺激を入れていけば、少しずつ「本来の役割」を思い出してくれます。

  • スマホを見るときに、画面を顔に近づけてみる
  • 椅子に座るとき、ほんの少しアゴを引いてみる
  • 夜、仰向けになったときに、後頭部の乗り方をそっと観察してみる

こうした小さな工夫だけでも、首と頭の関係性はじわじわ変わっていきます。

一人で抱え込みすぎず、

「この首こり・頭痛、首の土台から整えた方がいいのかな?」

と思ったときは、整体りびるどのような専門家を頼っていただくのも一つの選択肢です。

からだは、扱い方を変えれば、年齢に関係なく”戻る力”を発揮してくれます。
今日の記事が、後頭下筋群との付き合い方を見直すきっかけになればうれしいです。🌙

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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