靴下を履いても足が冷たい人に共通する“感覚の鈍り”とは?

靴下を履いても足が冷たい人に共通する“感覚の鈍り”とは?

寒くなる季節、「靴下を履いても足先が冷たい」「湯たんぽを使っても温まらない」という声をよく聞きます。
中には「もう体質だから」と諦めてしまっている方もいるかもしれません。

しかし、理学療法士として多くの方の身体を見てきた経験から言えるのは、
**“冷えは体質ではなく状態”**であるということ。
そしてその根っこには、「感覚の鈍り(感覚入力の低下)」があります。

人の身体は、温められて温まるのではなく、自ら温まる仕組みを持っています。
この記事では、冷えの本当の原因と、身体の感覚を取り戻すための具体的なステップを紹介します。


1. 靴下を履いても足が冷たいのは「血流の問題」ではない

冷えを「血行不良」と片づけてしまうのは簡単です。
ですが実際はもう少し複雑で、**“脳と感覚の通信エラー”**が起こっているケースが多いのです。

私たちの身体は、皮膚や筋肉にあるセンサー(温度受容体・圧受容器・固有感覚受容器など)を通じて
「今どこが、どんな状態なのか」を常に脳へ報告しています。
この情報をもとに脳が「血流を増やそう」「筋肉をゆるめよう」と指令を出すことで、温かさが保たれています。

しかし、
・関節や筋膜の動きが乏しい
・足裏への刺激が少ない
・姿勢の偏りで神経伝達が滞っている
といった状態では、この“報告”がうまく届きません。

結果、脳は「そこは安全だから、血流を減らしてもいい」と判断。
その結果、温度が下がり、「冷えている」と感じる――。
実際には、**“血流が減っている”のではなく、“血流を減らすように脳が指示している”**のです。


2. 感覚の鈍りが起こる3つの背景

① 動かない時間が長い

長時間のデスクワーク、車移動、立ちっぱなし――これらは一見「静かな姿勢」ですが、
実は**感覚入力の“遮断姿勢”**です。
足首や足指の小さな動きが失われることで、関節包内の受容器(関節運動受容器)や筋紡錘からの情報が減少。
「動かさない=感じない」が続くと、感覚マップがぼやけ、冷えが定着していきます。

② 無意識の緊張

冷え性の方を観察すると、足指が反り返り、ふくらはぎに常に力が入っていることが多いです。
これは、寒さや不安などから生じる交感神経優位のサイン。
身体が“守りモード”に入ると末梢血管が収縮し、温度を保つよりも「中心部を守る」反応が優先されます。

③ 呼吸の浅さ

浅い胸式呼吸では、横隔膜や腹部の動きが小さく、自律神経のリズムが乱れやすくなります。
呼吸と血管運動は密接に関連しており、**“息が浅い人ほど冷えやすい”**のはこのためです。
横隔膜の動きが悪いと、腹部のリンパ・静脈還流も滞り、全身循環にも影響します。


3. “冷え体質”から抜け出すための3つの整え方

冷えを解消するには、「温める」よりも「感じる」こと。
以下の3つは、感覚・構造・神経を再び連携させるための基本ステップです。


① 構造を整える──“動く足”を取り戻す

足部には26個の骨と33の関節があり、それぞれが絶妙なバランスで動くことで、地面からの情報を全身へ伝えています。
しかし、靴や姿勢のクセでこの動きが固定されると、脳への入力が減少。
冷えだけでなく、膝痛や腰痛にもつながります。

足首をゆっくり回す、足趾を1本ずつ広げる、足裏をゴルフボールで転がす――
こうした微細な刺激が、神経の“通り道”を再起動させるうえで有効です。

🔹補足:関節運動による筋出力反射(Arthrokinetic Reflex)
関節が正しい位置で動くことで、筋出力や血管拡張反応が起こることが知られています。
「動かすことで温まる」は、単なる比喩ではなく、生理学的な事実なのです。


② 呼吸を整える──“中から温める”スイッチを入れる

呼吸の深さは、自律神経のバランスを反映します。
「5秒吸って、10秒吐く」だけでも、副交感神経が優位になり、
末梢血管の拡張・心拍数の低下・筋緊張の緩和が連動して起こります。

冷えを訴える人の多くは、肩をすくめた浅い吸気パターン。
これは“守る呼吸”です。
これを「吐く呼吸」に変えるだけで、神経が安心を感じ、身体は自然に温まります。

🧠エビデンス:ゆっくりとした呼吸(6〜8回/分)は副交感神経活動を高め、
血流と酸素供給を改善することが研究で確認されています(参考:Crit Care Med. 2017;45(3):e343–e351)。


③ 意識を整える──“感じる力”を日常に戻す

冷えの本質は、「身体とのつながりが弱くなっていること」。
足裏の感触を意識し、
・地面との接地感
・重心の揺れ
・足指の反応
といった“小さな気づき”を持つことが、感覚の再構築を促します。

意識が向いた場所には、神経活動と血流が集まる――。
これは脳科学的にも確認されている現象です。
つまり、「感じる」こと自体が最も深いセルフケアなのです。


4. 理学療法士が見てきた“冷えの臨床”──温めずに温まる人の特徴

臨床現場で多くの人を観察してきて感じるのは、
“温めなくても温まる人”には共通点があるということ。
それは「感覚と構造の再接続」が起きた人たちです。

① 感じることを受け入れ始めた人

冷えを“悪い状態”と避けず、「今、冷たい」と正直に感じられる人ほど変化が早い。
これは単なるメンタルの話ではなく、脳内の体性感覚野の再活性化を意味します。
感覚受容が高まると、身体マップ(ボディマップ)が再構築され、
脳が再びその部位を「自分の一部」として認識し始めます。

② 支える感覚が戻った人

床反力(地面からの反力)を感じられるようになると、身体の“安全信号”が増えます。
結果、筋緊張がゆるみ、血管が開き、体内の流れが整っていく。
「構造の安定が神経の安心を生む」――これが温まる身体の仕組みです。

③ 意識の焦点が外へ広がった人

冷えが改善していく人ほど、「外の世界」へ注意が向きます。
「散歩したい」「外の風を感じたい」と思えるようになることが、
身体が“守る”モードから“整う”モードに切り替わった証拠。

冷えとは「身体が安全を確認できていない状態」。
その安全が取り戻されると、自然と血も、温かさも流れ始めます。


5. 冬の身体を整えるために、今日からできる小さな実践

① 朝の足刺激で一日の流れをつくる

布団から出る前に、足首を10回ゆっくり回し、足指を1本ずつ軽く動かしましょう。
この小さな刺激が、感覚と血流を同時に“目覚めさせる”スイッチになります。

② 呼吸の出口を整える

浅い胸式呼吸をやめ、「吐く」ことを意識してみましょう。
5秒吸って10秒吐く――これを3分続けるだけで、末梢の血流量が上がることが実感できるはずです。

③ 足裏で感じる時間をつくる

一日の終わり、靴を脱いで床や畳の感触を確かめる時間を持ってみてください。
足裏のセンサーが刺激され、姿勢・呼吸・神経が連動して整っていきます。


6. まとめ──“温める”より“感じる”を取り戻す

冷えを「治す」ことに意識を向けると、どうしても外的な対処(靴下・カイロ・入浴)に頼りがちです。
けれど本当に大切なのは、「自分の身体が温まる仕組みを思い出すこと」

動ける構造、整った呼吸、そして感じる意識。
この3つが噛み合ったとき、身体は自然に“流れる”ようになります。

温まることはゴールではなく、身体が再びつながり始めたサイン
冷えは“敵”ではなく、“自分の感覚と再会するきっかけ”ととらえることができるようになれば、きっとあなたの悩みも解決に向かうでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

お身体のお悩み等ありましたら、お気軽に整体りびるどにご相談ください。

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