「マッサージしても治らない肩こり」の理由と、根本から軽くするための考え方

目次
第1章:肩こりとは何か ― “凝っている=硬い”ではない現実
「肩が凝る」「首が重い」「背中が張る」――日本人の多くが感じているこの違和感。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、女性では第1位、男性でも第2位の自覚症状が「肩こり」です。
それだけ多くの人が悩んでいるにもかかわらず、原因がはっきりしない、何をしてもスッキリしないという声が後を絶ちません。
「凝っている」とは、実は“防御反応”
肩こりという言葉のイメージから、「筋肉が硬くなっている」「血流が悪い」と考えられがちです。
もちろんその側面もありますが、実際には 体が“守ろうとしている反応” であることも少なくありません。
例えば、長時間のデスクワークで首が前に出た姿勢を続けると、
脳は「この姿勢は危険かもしれない」と判断し、肩や首の筋肉を緊張させて支えようとします。
つまり、「凝っている=悪い状態」ではなく、“体が頑張っているサイン” とも言えるのです。
「筋肉」だけでは説明できない肩こり
肩こりという言葉の中には、筋肉の緊張以外にもさまざまな要素が隠れています。
- 姿勢のクセ:頭部の位置や背骨のカーブの崩れ
- 呼吸の浅さ:胸郭や肋骨の動きが制限される
- 感覚のズレ:自分の姿勢や重心を正確に感じ取れない
- 自律神経の乱れ:ストレスによる交感神経の過活動
これらが重なり合うことで、筋肉の緊張が“結果”として現れているにすぎません。
つまり、肩こりとは「筋肉の問題」ではなく、“感覚と構造の不一致” と捉える方が正確です。
「コリの正体」は“脳の警戒信号”
最新の研究では、慢性的な肩こりを持つ人の脳では、**痛みや不快感を処理する領域(島皮質や帯状回など)**が過敏になっていることが報告されています【Niddam et al., Pain 2014】。
これは「筋肉の硬さ」だけでなく、脳が“危険信号”を出し続けている状態ともいえます。
体が危険を感じれば、自然と筋肉は緊張します。
つまり、「コリ」とは単なる筋疲労ではなく、体が自分を守るために出しているメッセージなのです。
現場で感じること
臨床で多くの肩こりの方をみていると、
- 胸郭が硬く、呼吸が浅い
- 肩甲骨が動かず、首だけで支えている
- 「力を抜く感覚」が分からない
こうした共通点があります。
凝っている筋肉を“もみほぐす”よりも、
**「なぜそこが緊張せざるを得ないのか」**を見極めることが、根本的な改善につながります。
第2章:よくある誤解 ― 「マッサージすれば治る」は本当か?
肩こりと聞くと、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが「マッサージ」。
実際、こりを感じた時に「とりあえず揉んでもらう」「温める」「湿布を貼る」という人は非常に多いでしょう。
確かに、それらの方法で一時的に軽くなることはあります。
しかし、“気持ちよさ”と“根本改善”はまったく別物です。
一時的に良くなる理由
マッサージや温熱で血流が一時的に良くなると、筋肉の酸素供給が増え、痛み物質が流されやすくなります。
それにより、「軽くなった」「ほぐれた」と感じるのは自然な反応です。
しかしこの効果はあくまで一時的な“リセット”。
体が再び同じ姿勢や緊張パターンに戻れば、
すぐにコリが再発する――これが「揉んでも治らない肩こり」の正体です。
“ほぐすほど硬くなる”こともある
意外に思われるかもしれませんが、マッサージを繰り返すことで筋肉が防御反応を起こし、かえって硬さが増してしまうケースもあります。
脳は「繰り返し刺激される=危険」と判断し、筋肉を守るためにさらに緊張を強めます。
つまり、揉みほぐすほど“防御モード”が強まり、凝りが慢性化しやすくなるのです。
この現象は「筋防御反応」と呼ばれ、実際に慢性痛患者の筋活動を測定した研究でも報告されています【Falla et al., Clinical Neurophysiology 2004】。
“筋肉”ではなく“環境”を変える
肩こりを改善するうえで本当に大切なのは、
凝りが起きる環境をどう変えるかです。
- 頭の位置(頚椎〜胸椎のアライメント)
- 呼吸の深さ(胸郭と横隔膜の動き)
- 肩甲骨の可動域
- 日中の姿勢習慣
これらのどこかに偏りがあれば、脳は「姿勢を支えにくい」と判断し、肩の筋肉を緊張させて支えようとします。
“心の緊張”も見逃せない
肩こりには、ストレスや緊張、不安といった情動的な要素も深く関わります。
プレッシャーを感じる場面では、無意識に肩をすくめたり呼吸が浅くなったりすることがあります。
つまり、肩こりは単なる肉体の問題ではなく、心身のバランスの乱れを映す鏡でもあるのです。
まとめ
「マッサージでほぐす」は決して悪いことではありません。
ただし、それは“体を戻すためのきっかけ”であり、ゴールではありません。
本当に大切なのは――
肩が凝らなくても済む体の使い方と感覚を取り戻すこと。
第3章:肩こりの本質 ― 姿勢・呼吸・感覚のズレから読み解く
肩こりの本質は、単なる「筋肉の硬さ」ではありません。
臨床の現場で多くの方を見ていると、**姿勢・呼吸・感覚の“わずかなズレ”**が積み重なって起こっているケースがほとんどです。
つまり、肩こりとは「体の使い方の結果」であり、「原因」ではないのです。
1. 姿勢のズレ ― 頭が少し前に出るだけで
頭の重さはおよそ4〜5kg。
この頭がたった2〜3cm前に出るだけで、首と肩の筋肉にかかる負担は倍以上になるといわれています。
とくに僧帽筋上部や肩甲挙筋は常に“引っ張られながら支える”状態になり、疲労が蓄積していきます。
また、猫背姿勢では胸椎(背中の骨)が後弯し、肩甲骨が外側・上方に偏位。
この状態では肩を動かすたびに筋肉が摩擦を受け、慢性的な緊張が抜けにくくなります。
2. 呼吸のズレ ― 胸が動かないと首が頑張る
呼吸が浅い人ほど、首や肩まわりの筋肉(斜角筋・胸鎖乳突筋など)で息を吸う“補助呼吸”に頼りやすくなります。
その結果、呼吸のたびに首の筋肉が動員され、呼吸=負担という悪循環が生まれます。
一方で、胸郭や横隔膜がしっかり動く呼吸ができている人は、自然と首や肩の筋肉がリラックスしています。
つまり、「呼吸の浅さ」は肩こりの原因ではなく、肩こりの“結果”として現れていることも多いのです。
3. 感覚のズレ ― 力を抜く感覚が分からない
意外と多いのが、「力を抜く感覚がわからない」という方。
力を抜くためには、まず“入っている力”を自覚する必要があります。
しかし、慢性的な肩こりの方は長年その状態が当たり前になっているため、
「自分の肩が上がっている」「首に力が入っている」といった感覚が鈍くなっています。
この「感覚のズレ」が続くと、脳はその状態を“正常”と記憶してしまい、
無意識に緊張を維持し続けてしまうのです。
4. 姿勢 × 呼吸 × 感覚の三位一体
肩こりを根本から整えるには、
- 姿勢(構造)を整える
- 呼吸(内圧)を整える
- 感覚(認識)を整える
この3つを同時に扱うことが欠かせません。
どれか1つがズレても、全体のバランスは崩れます。
臨床的にも、「肩だけ施術しても戻りやすいけれど、胸郭や骨盤から整えると再発しにくい」という現象はよく見られます。
これは、肩こりが“全身の調和の乱れ”として起こっていることを意味しています。
まとめ
肩こりを治すとは、
「筋肉をほぐす」ことではなく、姿勢・呼吸・感覚の一致を取り戻すこと。
体の中の流れが整えば、肩は自然と軽くなっていきます。
第4章:臨床で見える共通点 ― 胸郭・肩甲骨・頚部の連動不全から読み解く肩こり
肩こりの患者さんを数多くみていると、単に「肩が硬い」「首が前に出ている」という表面的な問題ではなく、
胸郭(肋骨のかたまり)と肩甲骨、頚部の“動きの協調性”が失われていることが非常に多く見られます。
この「連動のズレ」こそが、慢性的な肩こりを生み出す核心のひとつです。
1. 胸郭(胸のかたまり)が硬いと、肩が上がる
胸郭は呼吸に関与するだけでなく、肩甲骨の土台でもあります。
胸椎や肋骨の可動性が低下すると、肩甲骨がスムーズに動かず、
結果として肩や首の筋肉が代わりに動こうとして“頑張りすぎる”状態になります。
実際、肩こりのある人は、胸椎の伸展(胸を張る動き)や回旋(ねじる動き)が極端に少ないケースが多いです。
胸郭が動かない=肩甲骨が滑らない=首で支える、という悪循環ができあがります。
2. 肩甲骨が動かないと、首が引っ張られる
肩甲骨は「浮いた骨」とも呼ばれ、筋肉によって体幹に吊り下げられています。
肩甲骨が外に開いたままだと、僧帽筋上部や肩甲挙筋が常に引き伸ばされ、
その結果として**「首の付け根が張る」「肩の上が重い」**という訴えが出やすくなります。
この状態は、いわば「肩甲骨が支えを失った状態」。
支えを取り戻すためには、胸郭や肋骨の動きを改善し、
“肩甲骨が滑るための土台”を取り戻すことが欠かせません。
3. 頚部(首)の防御反応が抜けない
肩や胸の動きが制限されると、最終的に首の筋肉が全てを代償します。
特に胸鎖乳突筋や斜角筋は、呼吸や姿勢のバランスを取るために常に働き続けるため、
結果的に過緊張となり、首まわりの鈍い重さや頭痛の原因にもなります。
臨床的に、首だけを緩めても改善しない人は、
「胸郭や肩甲骨が動けない状態で首が守りに入っている」ことが多いのです。
4. 「力を抜けない肩こり」は感覚の問題
多くの人が「リラックスしようとしても力が抜けない」と言います。
これは筋肉の問題ではなく、“力を抜く感覚”を脳が忘れている状態。
実際、軽く肩甲骨を動かしたり、呼吸を整えたりするだけで、
「自然と肩の力が抜ける」と感じる方が多いのはこのためです。
まとめ
肩こりを生み出すのは、
- 胸郭の硬さ
- 肩甲骨の滑りの悪さ
- 首の防御反応
- 力を抜けない感覚の鈍化
これらが重なった**「全身の連動不全」**です。
肩だけを揉んでも戻るのは当然であり、
胸郭を開き、肩甲骨が滑り、首が“守らなくていい状態”をつくることが根本改善のカギとなります。
第5章:セルフチェック ― あなたの肩こりタイプを見極めるポイント
肩こりといっても、人によって原因やパターンはさまざまです。
“自分の肩こりがどんなタイプなのか”を知ることで、必要なケアの方向性が見えてきます。
ここでは、自宅で簡単にできるセルフチェックを紹介します。
① 首を前後に動かしてみる
- 前に倒すと痛い/重い → 後ろ側(僧帽筋・肩甲挙筋など)の緊張が強いタイプ
- 後ろに反ると詰まる → 胸椎や胸郭が硬く、首に負担が集中しているタイプ
👉 ポイント:どちらの動きがつらいかで「支えている側」が見えてきます。
② 肩をすくめてから、ストンと下ろしてみる
肩を思いきり持ち上げてから、脱力するように下ろしてみましょう。
その時に――
- 肩が“ストン”と落ちる → 筋肉が弾力を保っている健康タイプ
- 肩が途中で止まる/うまく抜けない → “抜ける感覚”が失われたタイプ
👉 無意識に力を入れている人ほど、力を抜く感覚が分からなくなっています。
③ 腕を横に上げてみる
- 途中で肩が上がってしまう
- 肩甲骨が動かず、首で持ち上げている感じがする
この場合は、胸郭と肩甲骨の連動不全タイプ。
肩を動かすたびに首や背中の筋肉が補助し、結果的に慢性化しやすくなります。
④ 呼吸を観察してみる
- 胸の上の方だけで呼吸している
- 息を吸うたびに肩が上がる
👉 これは「補助呼吸筋」に頼っているサインです。
呼吸が浅いほど、首と肩が常に働きすぎてしまいます。
⑤ 姿勢を横からチェック
鏡の横に立って、自分の姿勢を見てみましょう。
- 耳が肩より前に出ている
- 胸が落ち、背中が丸まっている
これらは典型的な「前方重心タイプ」。
首と肩の筋肉が、頭を前から“吊り上げて支えている”状態です。
✅ チェック結果の読み方
タイプ | 主な特徴 | 改善の方向性 |
---|---|---|
首・肩後面タイプ | 前屈で痛い/肩が下がらない | 首や肩を支える筋を“緩める”より“整える” |
胸郭硬化タイプ | 反ると痛い/呼吸が浅い | 胸を開き、呼吸で背中を動かす |
感覚鈍化タイプ | 力を抜けない/姿勢が分からない | 感覚再教育・体の位置感覚の再構築 |
まとめ
肩こりは「どの筋肉が凝っているか」ではなく、**“どんなバランスで凝っているか”**を見極めることが大切です。
自分の体の反応を観察することが、回復の第一歩。
「痛いから揉む」ではなく、「なぜそこが頑張っているのか?」という視点を持ちましょう。
第6章:セルフケアのヒント ― 感覚を取り戻す・呼吸で整える
肩こりを根本的に解消するためには、単に筋肉をほぐすのではなく、
「感覚を取り戻すこと」 と 「呼吸を整えること」 が欠かせません。
この2つが整うことで、体は自然と“力を抜ける状態”を思い出していきます。
1. 感覚を取り戻す ― 「今、どんな姿勢をしているか」に気づく
まず大切なのは、「今、自分がどうなっているか」に気づくこと。
人は疲れてくると、知らず知らずのうちに肩をすくめたり、顎を前に突き出したりしています。
1日数回、以下のように意識してみましょう。
- 鏡を見ずに、肩の高さ・首の位置を感じてみる
- 「肩に触れてみて、力が入っているか」を確かめる
- 無意識に上がっている肩を“そっと下げる”
👉 これは“正しい姿勢”を取る練習ではなく、感覚をリセットする練習です。
「力を抜ける体」は、まず“入っている力”に気づくことから始まります。
2. 呼吸で整える ― 首の力を抜いて息をする
浅い呼吸では、首や肩の筋肉(斜角筋・胸鎖乳突筋など)が働きすぎてしまいます。
次のように「横隔膜を使った呼吸」を取り入れてみましょう。
【基本の呼吸エクササイズ】
- 椅子に座り、背もたれに軽く背を預ける
- 鼻からゆっくり息を吸い、お腹と背中が同時に膨らむのを感じる
- 口から細く長く吐きながら、肩をストンと下ろす
ポイントは、“頑張って吸わないこと”。
吸うことよりも、「吐く」ことで緊張を手放す感覚を重視しましょう。
3. 肩甲骨を“滑らせる”ように動かす
筋トレではなく、“感覚を呼び戻す動き”が目的です。
【肩甲骨スライド】
- 背筋を伸ばして座り、両手を太ももに置く
- 肩をすくめずに、肩甲骨を後ろに“滑らせる”ように胸を開く
- そのままゆっくり元の位置に戻す(3〜5回)
👉 「動かす」より「感じる」。
筋肉の収縮ではなく、肩甲骨と肋骨が擦れ合うような感覚を意識します。
4. 胸郭を解放するストレッチ
胸が閉じると呼吸が浅くなり、肩こりが悪化しやすくなります。
壁を使った簡単ストレッチで胸を開きましょう。
- 壁に片手をつき、体を反対方向に軽くひねる
- 胸の前側(大胸筋〜鎖骨周囲)が伸びるのを感じる
- 深呼吸を3回、吐くたびに肩の力を抜く
👉 このとき「伸ばす」のではなく、「開いて呼吸を入れる」意識を。
5. “ほぐす”より“整える”
大切なのは「気持ちよく動ける状態をつくる」こと。
無理にゴリゴリ押すよりも、感覚と動きが一致する瞬間を増やしていく方が、
結果的に肩こりの再発を防ぎます。
まとめ
- 肩こりをほぐすのではなく、“感じ直す”
- 呼吸で首の緊張を解き、体の内側の圧を整える
- 肩甲骨と胸郭を「一緒に」動かす
これらを続けることで、“支えるための力み”が“動ける安定”に変わっていきます。
第7章:まとめ ― 肩こりを「感じ方」から変える
肩こりは、単に「筋肉が硬い」という問題ではありません。
それはむしろ、体が“守ろうとしている”結果です。
大切なのは、その防御反応を無理に取り除くのではなく、
「なぜ体がそう反応しているのか」を理解し、安心して力を抜ける状態を取り戻すことです。
“凝っている場所”ではなく“凝らせている構造”を見る
長年の臨床経験から言えるのは、
痛みや張りがある場所は「結果」であって「原因」ではないということ。
- 胸郭が硬くて呼吸が浅い
- 肩甲骨が支えを失っている
- 頭が前に出て、首が常に頑張っている
- 体幹と下肢の連動が途切れている
こうした全身のバランスを整えることで、肩は自然と軽くなっていきます。
“肩を治す”のではなく、“肩が頑張らなくても済む体”をつくる。
それが根本的な解決への道です。
「感じ方」が変わると、動きも変わる
施術やセルフケアを通じて体の感覚が戻ってくると、
「どこに力が入っているか」「どんな呼吸をしているか」が分かるようになります。
その“気づき”こそが、肩こりを繰り返さないための最大の鍵です。
感覚が戻ることで、
- 不要な力みが減る
- 姿勢が自然に整う
- 呼吸が深くなる
- 体全体が連動して動ける
これらの変化が、“軽さ”という体感をもたらします。
肩こりは「戻れる体」を取り戻すチャンス
肩こりは、体が「今のままではバランスが崩れている」と教えてくれているサインです。
その声に耳を傾けて整えていく過程は、
単なる痛みの解消ではなく、“自分の体と再びつながる”プロセスです。
「ほぐす」ではなく「戻す」。
これが、りびるどが大切にしている考え方です。
最後に
肩こりを感じたときは、「また凝ってるな」と嘆くのではなく、
「今、どこが頑張っているんだろう」と自分に問いかけてみてください。
そこからが、“整う体”へのスタートラインです。