呼吸が浅い人の“胸まわりガチガチ肩こり”~みぞおち・肋骨・横隔膜から整える発想~
目次
1. 「息が浅い日ほど肩がつらい…」そんな声が増えています
ここ数年、こんな訴えが本当に増えました。
- マスク生活が続いてから、呼吸が浅くなった気がする
- 深呼吸しようとしても、胸の上のほうしか動いていない感じがする
- 夕方になると、胸から肩にかけて板みたいに固まる
デスクワークで一日中前かがみ、家に帰ってもスマホを見ながらソファに沈み込む。そんな生活が重なると、「知らないうちに息が浅くなる → 胸まわりがこわばる → 肩こり・首こりが慢性化する」という流れが出来上がりやすくなります。
私のところに来られる方も、
「肩がつらくて…」とおっしゃるのですが、触れてみると一番ガチガチなのは、肩よりも“みぞおちまわり”ということがとても多いです。ここが固まっていると、横隔膜や肋骨がうまく動けず、呼吸がどうしても浅くなりがちです。
この記事では、
- 浅い呼吸と肩こりがどうつながっているのか
- みぞおち・肋骨・横隔膜をゆるめていく考え方
- 今日からできる、シンプルなセルフケア
を、一緒に整理していきます。
「整体に行くほどかな…」と迷っている方にも、まずは体の仕組みを知って、できるところから整えていけるような内容にしていきますね。
2. 「呼吸が浅い=肺が弱い」だけの話ではありません
“呼吸が浅い”と聞くと、
- 肺の病気がある
- 体力がない
- 運動不足だから
といったイメージを持つ方も多いかもしれません。でも、整体やリハビリの現場でよく見られるのは、もっと「姿勢」や「筋肉の使い方」による浅い呼吸です。
呼吸が浅いとき、よくあるパターン
- 肩がすくんでいる
- アゴが前に出て、猫背ぎみ
- みぞおち周りがカチカチに固まっている
- 息を吸うとき、胸の上だけが持ち上がる
この状態だと、本来しっかり動いてほしい横隔膜や肋骨の下のほうが、うまく働けません。その分、首の前の筋肉や肩まわりの筋肉(いわゆる“補助呼吸筋”)が頑張りすぎてしまい、肩こりにつながりやすくなります。
一方で、ネット上では
- 「浅い呼吸=すぐ重大な心臓や肺の病気」という極端な情報
- 「胸式呼吸は悪、腹式呼吸だけが正しい」という言い切り
のような少し極端な表現も見かけます。
もちろん、動悸や息切れ、胸痛などが強いときは、まず医療機関での確認が最優先です。ただ、検査では大きな異常がないのに「息苦しさや肩こりだけが続く」ケースでは、呼吸の“形”そのものを整えることで、楽になる余地が残っていることが少なくありません。
呼吸は、本来、
- 肺や横隔膜などの「臓器」
- 胸郭(肋骨)や背骨などの「骨・関節」
- 首や肩・お腹まわりの「筋肉」
- そして、それをコントロールする「自律神経」
がチームとして動いている現象です。どれか一つだけではなく、このバランスが崩れると「浅い呼吸+肩こり」の形になりやすいと考えると、イメージしやすいかもしれません。
3. からだの中で実際に起きていること
(横隔膜・肋骨・自律神経の視点から)
ここから少しだけ中の話をしていきます。難しい言葉は、生活の感覚に置き換えながら読んでみてください。
3-1. 横隔膜が“サボりぎみ”になるとどうなるか
呼吸の主役は「横隔膜」というドーム状の筋肉です。吸うときに下がり、吐くときに上がるポンプのような働きをしています。
近年のレビューでは、「上部胸郭の補助筋ばかり使うような“呼吸パターンの乱れ”が、筋骨格系の痛みと関連している」といった報告があります。PMC+1
また、慢性の首の痛みがある人では、健康な人と比べて、
- 呼吸に必要な筋力が弱くなっている
- 肺活量などの呼吸機能が低下している
といったデータも示されています。Physiopedia
つまり、「首や肩がつらい人ほど、呼吸の主役である横隔膜がうまく使われていない」可能性がある、ということです。
横隔膜がサボると、その分を補うために、
- 首の前側(胸鎖乳突筋など)
- 鎖骨の周り
- 肩の上のほう(僧帽筋の上部)
が緊張して呼吸を助けようとします。その結果、「息を吸うほど肩が上がる」「深呼吸したつもりが首が疲れる」という状態になってしまいます。
3-2. 肋骨と胸椎の動きが悪いと“胸まわりガチガチ”に
肋骨は、前側は胸骨と、後ろ側は胸椎と関節を作っています。本来、呼吸に合わせて少しずつ上下・外側に広がるのですが、猫背が続いたり、長時間同じ姿勢で座りっぱなしだったりすると、この動きが固くなっていきます。
いくつかの研究では、胸椎の動きや姿勢と、首や肩の機能との関連が指摘されています。例えば、胸椎の動きが悪いと肩の挙上に必要な可動域が足りなくなったり、首の動きの自由度が下がることが報告されています。PMC+1
「胸が広がらない感じがする」「背中の真ん中あたりがいつも重だるい」という方は、この胸椎・肋骨ユニットが固まっているサインかもしれません。
3-3. 自律神経と“息苦しさ+肩こり”の関係
呼吸は、自律神経とも深くつながっています。ストレスや緊張が続くと、交感神経が優位になりやすく、
- 呼吸が速く、浅くなる
- 心拍数が上がりやすい
- 筋肉の緊張が抜けにくい
といった状態になります。
最近の文献では、「呼吸パターンの乱れ(Breathing Pattern Disorder)」が慢性痛や中枢性感作(痛みを感じやすくなる状態)と関連していることも示されています。MDPI+1
つまり、
ストレスで呼吸が浅くなる
→ 横隔膜・肋骨が動きにくくなる
→ 首や肩まわりが呼吸を代わりに頑張る
→ 肩こりや首こりが続く
→ 痛みでさらに息が浅くなる
…という“ぐるぐるループ”が起きやすくなってしまうわけです。
3-4. 呼吸エクササイズが痛みに効く、という報告も
筋肉や関節のアプローチに加えて、「呼吸そのものを整えるエクササイズ」が、首・腰などの慢性痛に役立つという報告も増えてきました。
- 慢性の首の痛みの方に呼吸再教育を組み合わせると、痛みや障害度が有意に改善した、という臨床試験PLOS
- 呼吸エクササイズが、腰痛や首の痛みなど複数の筋骨格疾患で痛みの強さを下げたとするレビュー(約1,000人規模のデータ)ResearchGate
など、「呼吸の質」が痛みの感じ方にも影響していることを示すデータが少しずつ蓄積されています。
ですから、「ただの肩こり」と片付けず、浅い呼吸や胸まわりの固さに目を向けることは、遠回りのようでいて、実はとても合理的なアプローチだと私は感じています。
4. よくある生活パターンと“胸まわりガチガチ肩こり”の関係
では、日常生活のどんなクセが、「呼吸が浅い+胸まわりガチガチ+肩こり」につながりやすいのでしょうか。整体りびるどに来られる方を見ていると、次のようなパターンがよく見られます。
4-1. デスクワークで“みぞおちを折りたたむ”姿勢
- PC画面をのぞき込むような前かがみ
- お腹のあたりをたたむような座り方
- 胸の前で腕をすぼめたまま、キーボードを打ち続ける
この姿勢は、ちょうどみぞおちのあたりを折り曲げる形になるので、横隔膜が上下に動きづらくなります。結果として、息を吸うときに肩をすくめるクセがつきやすく、首や肩まわりの筋肉が休めなくなります。
4-2. スマホ時間が長く、あごが前に出るクセ
スマホを見るときに、
- アゴを突き出す
- 首だけ前ににょきっと出す
- 片方の腕でスマホを持ち、反対の肩をすくめている
といった姿勢が続くと、首の前側と胸の上部がずっと縮んだ状態になります。いくつかの研究では、いわゆる「フォワードヘッド姿勢」と呼ばれる頭の前突姿勢が、首・肩の痛みや呼吸筋の働きの低下と関連していることも報告されています。PMC+1
「スマホを見ているときほど、息を止めている」なんて方も、少なくありません。
4-3. ストレスが強く“いつも軽く息を詰めている”
仕事や家事、対人関係のストレスが強いと、無意識に息を浅くしてしまう方も多いです。
- 緊張する場面で、知らないうちに息が止まっている
- イライラしたとき、胸の真ん中がギューッとつまる感じがする
- 寝る前まで、頭の中で仕事のことを考えてしまう
こうした状態が続くと、体は常に「軽く身構えている」モードになり、胸・みぞおち・首・肩の筋肉から力が抜けにくくなります。
整体の視点から見ると、こうした生活パターンの積み重ねで、
- みぞおちまわりの硬さ
- 肋骨の動きの悪さ
- 胸椎のねじれ・丸まり
といった“からだの使いグセ”がハッキリ出てきます。肩だけをもみほぐしても、その下で呼吸を止めているクセが残っていれば、どうしても症状は戻りやすくなってしまうのです。
ここからは、よくいただく質問にQ&A形式で触れておきます。
Q1. 息苦しさと肩こりが一緒にあるとき、まず病院に行くべきでしょうか?整体でもいいですか?
「胸が痛い」「じっとしていても息切れがする」「階段を少し上がっただけで苦しい」といった症状が強い場合は、まず内科・循環器内科・呼吸器内科などの医療機関での確認を優先してください。
検査で大きな異常がなく、
- 主なつらさが「肩こり・首こり・胸のこわばり」
- 姿勢や動きで悪化・軽減がはっきりする
といった場合は、整体や理学療法で「呼吸のしやすいからだの形」を整えていくことが役に立つケースも多いです。迷うときは、両方の視点から見てもらう気持ちで考えていただくと良いと思います。
Q2. 深呼吸をたくさんすれば、浅い呼吸と肩こりは良くなりますか?
深呼吸そのものは悪いことではありませんが、「肩を大きく持ち上げて吸う深呼吸」になってしまうと、かえって首や肩の負担が増えてしまうことがあります。
大事なのは回数よりも、「どこが動いている呼吸か」です。みぞおちや肋骨の下のほうがふわっと広がるような呼吸を、少ない回数でも丁寧に行うほうが、横隔膜や肋骨には良い刺激になります。
Q3. どのくらい続いたら、専門家(整体やリハビリ)に相談したほうがいいですか?
目安として、
- 1〜2週間、セルフケアを続けても肩こりや息苦しさがほとんど変わらない
- 夜中に目が覚めるほどの苦しさがある
- 仕事や家事に支障が出るレベルで、集中できない
といった場合は、無理に我慢せず、一度専門家に相談していただくのがおすすめです。
「こんなことで相談していいのかな…」と思う内容ほど、早めに見させてもらったほうが、少ない刺激で整えやすい印象があります。
5. みぞおち・肋骨・横隔膜から整えるための小さな一歩
最後に、今日から取り入れやすいケアのヒントをいくつかご紹介します。全部やろうとしなくて大丈夫です。「これならできそうかな」というものを一つ選ぶところからで十分です。
5-1. みぞおちに手を添えて“ほどく”呼吸
- 椅子に浅く腰かけ、背もたれにもたれすぎない姿勢をとる
- 片手をみぞおち(みぞのくぼみの少し下)に、もう片方を胸の上に置く
- 鼻からゆっくり吸って、「みぞおちの手がふわっと前に押される」イメージでお腹の奥をふくらませる
- 口から細く長く吐きながら、みぞおちの手がやさしく戻ってくるのを感じる
ポイントは、「胸の手より、みぞおちの手がよく動くこと」です。1〜2分ほど、無理のない範囲で続けてみてください。
5-2. 椅子に座ってできる“肋骨ゆらし”
- 椅子に座り、両手を肋骨の横(下着のラインあたり)に当てる
- 口を軽く閉じ、鼻から軽く息を吸いながら、体を左右に小さくゆらゆら揺らす
- 吐くときに、「肋骨が内側に少しすぼまってくる」イメージを持つ
動きは小さくて構いません。肋骨全体が“固まった板”ではなく、“少ししなるかご”のように感じられてきたら上出来です。
5-3. 1日の中に「呼吸リセットタイム」を作る
- 朝起きてすぐ
- 昼休みの前後
- 夜寝る前
のどこかに、1〜2分だけ「呼吸だけに意識を向ける時間」を入れてみてください。
仕事や家事の合間だと、どうしても頭の中が忙しいままなので、いったんスマホを置いて、「息が入ってくる・出ていく感覚」にだけ集中してみるのがコツです。
近年の研究では、呼吸エクササイズが痛みの軽減だけでなく、睡眠の質や不安感の軽減にも一定の効果を示したという報告も出ています。ScienceDirect+1
5-4. 肩だけでなく“呼吸の道”を整えるイメージで
肩こりがつらいと、どうしても「肩そのもの」を何とかしたくなりますよね。でも、呼吸が浅くなりがちな方の多くは、
- みぞおち
- 肋骨
- 胸椎
といった「呼吸の通り道」が固まっていることが少なくありません。そこをやさしくほぐしていくことで、結果的に肩や首の負担が軽くなるケースを、臨床の現場でたくさん見てきました。
セルフケアで少しでも楽になる感覚があれば、その方向性はきっと間違っていません。反対に、
- 工夫してもほとんど変化がない
- 一時的には楽になるけれど、すぐに戻る
- 自分で触ると怖さや不安が強くなる
といったときは、無理に自力で頑張りすぎず、専門家の手を借りるタイミングかもしれません。
整体りびるどの施術では、肩を直接ほぐす前に、
- みぞおち・肋骨の動き
- 横隔膜と胸椎の連動
- 呼吸と姿勢の“クセ”
といった部分からやさしく整えていくことが多いです。そうすることで、「肩に力を入れなくても息がしやすい状態」を一緒に探していきます。
つらさが長引くときは、ひとりで抱え込まず、病院や整体など、信頼できる専門家に相談してみるのも一つの選択肢です。「どこに行けばいいか分からない」と迷っている方も、相談だけでも大丈夫ですよ。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事があなたのより良い生活のための一助になりますように。







