脊柱起立筋に問題が生じると、からだにどんな不具合が起きる?─背すじを支える“縦の柱”と、腰・背中・姿勢の関係─
座っていても、立っていても、歩いていても。
一日じゅう、あなたの身体の「うしろ側」で、黙々と働いてくれている筋肉があります。
それが今回のテーマ、**脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)**です。
- 立っているとすぐ腰が重だるくなる
- 姿勢を正そうとすると、かえって背中がつらい
- 長く座ったあとに立ち上がると、腰がギクッとする
- 猫背を直したいけれど、どこを意識したらいいかわからない
こうした「あるある」の裏側には、脊柱起立筋の“働きすぎ”や“さぼりぐせ”が混ざっていることが少なくありません。
脊柱起立筋は、背骨のすぐ両わきに縦に走る筋肉のかたまりで、
いわば背骨を「前から支える内臓」と「後ろから支える筋肉」のうち、後ろ担当の要石です。
今回は、
- 脊柱起立筋がどこにあって
- どんな役割をしていて
- バランスが乱れるとどんな不調が出やすくて
- 日常ではどう付き合えばいいのか
を、構造 × 神経 × 感覚の視点をまぜながら、整体りびるどのテラサワが整理してみます。
「最近、背中や腰に自信がなくなってきたな…」という方の、ヒントになればうれしいです。
1.脊柱起立筋って?
まずはざっくり「どこにあって、何をしているのか」を整理します。
■ どこにある筋肉?
脊柱起立筋は、
- 首の付け根あたりから
- 背中・腰を通って
- 骨盤のあたりまで
**背骨の両わきを、縦にびっしり走っている“なが〜い筋肉群”**です。
一本の筋肉ではなく、
- 棘筋(きょくきん)
- 最長筋(さいちょうきん)
- 腸肋筋(ちょうろっきん)
などが何本も束になって、「背骨を後ろから支えるユニット」を作っています。
■ どんな役割をしている?
主な仕事は、
- 上半身をまっすぐ立てる(姿勢の土台)
- 前かがみになった上半身を起こす
- 軽く反る・横に倒す・ねじる動きのサポート
といった、**“からだを倒さない・つぶれないようにするブレーキ役”**です。
実は、
- 歩くとき
- イスから立ち上がるとき
- 物を持ち上げるとき
- くしゃみや咳をしたとき
など、日常の何気ない動作で、こっそり細かく働いてくれています。
じっとしている時間が長い人ほど、「姿勢を維持する」という地味な仕事が増える筋肉とも言えます。
2.少し詳しく脊柱起立筋について解説
ここから少しマニアック寄りの話です。
■ どこをまたいで、何に影響する?
脊柱起立筋は、
- 頸椎(首の骨)
- 胸椎(背中の骨)
- 腰椎(腰の骨)
- 仙骨・骨盤
と、からだの中心の「縦のライン」をほぼ全部カバーしています。
そのため、脊柱起立筋の状態は、
- 頭の位置(前に出やすい/引きやすい)
- 背中の丸まり具合
- 腰の反り(反り腰/平らな腰)
- 骨盤の傾き
といった全体の姿勢バランスに直結します。
■ 「動き担当」よりも「土台担当」
脊柱起立筋は、
ダイナミックに大きく動かすよりも、
- 長時間じわっと働き続ける
- 必要なときにグッと支える
といった**“持久力タイプの土台筋”**です。
筋肉の中には、持久力に優れた「赤い筋線維」が多いことも報告されており、
とくに女性の脊柱起立筋は、男性に比べて遅筋線維の割合が高いという研究もあります。日本理学療法士協会
つまり、
本来は「長く・楽に・いい姿勢を保つため」に頼りになる存在なのですが、
- 同じ姿勢で固まる
- 筋力よりも「力み」で頑張ってしまう
といった状況が続くと、
本来の“持久力の良さ”が生かされず、ただのガチガチの背筋になってしまいます。
■ 他の部位とのつながり
脊柱起立筋は、
- お腹側の「腹筋群」
- 深いところの「多裂筋(たれつきん)」
- 横隔膜(呼吸の要)
- 骨盤底筋
などとチームを組み、体幹(コア)としてバランスを取り合う関係にあります。MDPI+1
- お腹側が弱いと、背中側(脊柱起立筋)が過剰に頑張る
- 呼吸が浅くなると、背中が固まりやすくなる
- 骨盤まわりの安定性が落ちると、腰の部分の脊柱起立筋にしわ寄せが来る
といった「運動連鎖」が起きやすい部位です。
▶エビデンス豆知識①:背筋の持久力と腰痛
脊柱起立筋の持久力を測るテスト(うつ伏せで上体を保つなど)は、
腰痛との関連を調べる指標として世界中で使われています。
ある研究では、脊柱起立筋の持久力が低い人ほど、腰痛を抱えている割合が高いことが報告されています。SciELO+1
ざっくり言うと、
「背すじを支える筋肉のスタミナ不足は、
長引く腰痛と関係しやすい」
という傾向がある、ということですね。
3.このパーツが乱れると出やすい不調
では、脊柱起立筋の「硬さ・弱さ・タイミングのズレ」が起こると、どんな不調が出やすいでしょうか。
■ よくある症状の例
- 慢性的な腰痛(重だるさ・張り感)
- 背中のこり・板が入ったような感覚
- 姿勢を正そうとするとすぐ疲れる
- 長時間座ったあとに立ち上がるときの、ビキッとした痛み
- 首や肩のこり(背面全体の緊張から波及)
- 呼吸が浅く、ため息が増える
こうした症状の中には、脊柱起立筋のコンディション不良が“背景の一つ”として混ざっていることが多いです。
■ なぜ、そんな不調が出るのか
ここで、「構造 × 神経 × 感覚」で整理してみます。
- 構造の面
- 背中側だけで姿勢を支えようとして、筋肉がパンパンに
- 背骨まわりが固まり、しなやかに動かなくなる
- 腰だけで反ったり、ねじったりするクセがつく
- 神経の面
- 背中・腰の筋肉の疲労が続くと、脳が「ここは危ない場所だ」と学習してしまい、
- 本来よりも敏感に痛みを感じやすくなる(防御モード)
- 感覚の面
- 「自分がどれだけ反っているか・丸まっているか」の感覚が曖昧になる
- 楽な姿勢が分からず、「楽=崩れた姿勢」になりがち
結果として、
「姿勢を正すと痛い」
「楽な姿勢にすると、あとから余計につらい」
というジレンマが生まれてしまいます。
▶エビデンス豆知識②:体幹トレーニングと慢性腰痛
近年の研究では、体幹(コア)の安定性を高める運動プログラムが、
- 慢性腰痛の痛みの軽減
- 日常生活の機能向上
に役立つという報告が多く見られます。PubMed+2PLOS+2
これらの運動には、脊柱起立筋を含む背筋の持久力アップが組み込まれていることが多く、
「お腹側だけでなく、背中側の“土台筋”もバランスよく鍛えること」
が、慢性的な腰痛ケアの重要なポイントと言えます。
4.自分でできる“ちょいケア”と、プロに任せるライン
ここからは、日常でできる簡単なセルフチェックと、ライトなケアをご紹介します。
※痛みが強い場合は、無理をせず専門家にご相談ください。
■ セルフチェック①:ゆっくり前屈チェック
- 足を腰幅に開いて立つ
- 息を吐きながら、頭から順番に“背骨を一つずつ折りたたむように”前屈していく
- 腰〜背中のどこで「つっぱり」や「怖さ」を感じるか観察
ポイント
- ももの裏よりも、「背中側のどこが一番つらいか」に意識を向ける
- どこか一部分だけ、断ち切られるような詰まり感が強い場合は要注意
→ 脊柱起立筋のどのあたりが固まりやすいか、ざっくり把握する目安になります。
■ セルフチェック②:イス座位での“楽なまっすぐ”
- イスに浅めに座る
- 思いきり猫背にしてから、ゆっくり真ん中に戻す
- 反り腰一歩手前くらいで止めて、呼吸をしてみる
ポイント
- 「胸を張る」ではなく、「背骨を軽く引き伸ばすイメージ」で
- 腰のあたりの脊柱起立筋がガチッと固まりすぎていないかを確認
→ 「軽く伸びているけれど、ギュッとは力んでいない」という感覚が、
脊柱起立筋にとって“おいしい仕事量”です。
■ ちょいケア①:背中を“面”で揺らす
- 仰向けに寝て、膝を立てる
- 腰の下にバスタオルをふんわり丸めて敷く
- 両膝をそろえたまま、左右に小さくゆらゆら倒す
ねらい
- 背骨にそってついている脊柱起立筋を、「点」ではなく「面」でやさしく動かす
- 力を抜きながら、“背面の感覚”を再入力していくイメージ
回数の目安
- 左右合わせて20〜30回を、呼吸を止めない範囲で
■ ちょいケア②:立ってできる背すじリセット
- 壁に頭・背中・お尻・かかとを軽くつけて立つ
- お腹を軽く引き入れ、鼻からゆっくり3秒吸う
- 口から5秒かけて吐きながら、背中全体で壁を“やさしく押す”
ねらい
- お腹側と背中側のバランスを取りながら、脊柱起立筋の「入りすぎ」をリセット
- 呼吸と合わせることで、神経系にも“落ち着きの信号”を送る
回数の目安
- 3〜5呼吸を1セットとして、気分転換がてら1日数回
▶エビデンス豆知識③:座り姿勢と背筋の負担
腰に負担がかかる代表格である「座り姿勢」については、
座り方によって腰の筋肉の負荷が変わることが報告されています。
ある研究では、腰を少し支えてくれる椅子(腰部サポート)を使うと、
腰の筋肉の活動量が減り、背骨への負担も減るという結果が示されています。PMC+1
つまり、
「自分の筋肉だけで頑張り続けるのではなく、
椅子やクッションに“仕事を分担”してもらうこと」
も、脊柱起立筋にとって大事なケアのひとつです。
■ プロに任せるラインの目安
以下のような場合は、自己流で頑張りすぎず、一度専門家に相談してください。
- お尻や脚にしびれが出ている
- 咳やくしゃみで腰に鋭い痛みが走る
- 夜間も痛みで目が覚める
- 腰を動かすと「ガクッ」と抜けるような怖さがある
- 骨粗鬆症や脊柱管狭窄症・圧迫骨折などの診断を受けている
脊柱起立筋だけの問題ではなく、
背骨や神経そのもののトラブルが隠れている可能性もあるため、
医療機関での確認をおすすめします。
5.まとめ
最後に、脊柱起立筋についてのポイントを整理します。
- 脊柱起立筋は、首から骨盤まで背骨の両わきを走る、背すじ担当の“縦の柱”
- 役割は、からだを反らすことよりも、「つぶれないように支える土台」としての持久力
- お腹側の筋肉・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋などとチームを組み、体幹全体の安定性をつくっている
- 硬すぎ・弱すぎ・タイミングのズレがあると、腰痛・背中のこり・姿勢の崩れ・呼吸の浅さなどが出やすくなる
- 「構造 × 神経 × 感覚」のバランスが崩れると、“姿勢を正すとつらい”という悪循環に入りやすい
- ちょいケアは、
- ゆっくり前屈で背面のつっぱり具合をチェック
- 仰向けで骨盤をゆらす・壁立ち呼吸で、背中の力みをリセット
- 「椅子やクッションに仕事を分担させる」「長時間同じ姿勢を避ける」ことも、脊柱起立筋には大事な養生
脊柱起立筋を“鍛え倒す”ことよりも、
「働きすぎない環境」と「ちょうどよい出番」をつくってあげること。
これが、40〜70代の身体にとって、
脊柱起立筋と上手に付き合うための現実的なポイントだと私は考えています。
6.おわりに
年齢とともに、
- 「前かがみが増えたな」
- 「背中が丸くなってきたかも」
- 「腰の不安が頭の片すみにいつもある」
そんな感覚を抱く方はとても多いです。
でも、脊柱起立筋をはじめとした体幹の筋肉は、
何歳からでも“使い方”を覚え直すことができる組織です。
ちょっとしたセルフチェックや、
数分のちょいケアを積み重ねるだけでも、
- 「この姿勢なら少し楽」
- 「前より立ち上がりがスムーズ」
といった、小さな変化が必ず出てきます。
そして、
「この不調、本当に脊柱起立筋だけの問題かな?」
と不安になったときは、
一人で抱え込まずに、専門家に頼ることも立派なセルフケアです。
整体りびるどでは、脊柱起立筋だけを“悪者”にするのではなく、
背骨・呼吸・足元・感覚のズレなども含めて、からだ全体のつながりを整理していきます。
「背中と腰に、もう少し自信を取り戻したい」
そんなときは、いつでも相談してもらえたら嬉しいです。
今日もここまで読んでくださったあなたの背中が、
少しでも“軽く・しなやかに”なっていきますように。 🌱
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。





