僧帽筋に問題が生じると、からだにどんな不具合が起きる?~首こり・肩こり・頭痛と「背中のえりまき筋」の関係~

僧帽筋と首こり・肩こり・頭痛の関係をわかりやすく解説する背中と肩まわりのイメージイラスト

「肩が石みたい」「首の付け根がズーンと重い」「肩甲骨の内側がいつも痛い」
整体の現場でよく耳にする言葉です。

多くの方が「肩こり=肩の筋肉」とイメージしますが、その中心選手ともいえるのが僧帽筋(そうぼうきん)
首の付け根から肩、そして背中の真ん中あたりまで、えりまきのように大きく広がっている筋肉です。

  • デスクワークが増えた
  • スマホを見る時間が長い
  • つい猫背・前かがみになりやすい

こうした生活スタイルの変化と一緒に、僧帽筋への負担もコツコツ積み重なっていきます。

じつは、

  • 首こり・肩こり
  • 緊張型頭痛
  • 肩が上がりにくい
  • 背中がいつも重だるい

といった「なんとなく不調」の裏側で、僧帽筋のコンディションが乱れていることがとても多いです。

今回は、理学療法士として、
「僧帽筋ってそもそも何者なのか?」
「乱れるとどんな不具合が出やすいのか?」
「日常ではどう付き合っていけばいいのか?」

を、構造 × 神経 × 感覚の視点をまぜながら、やさしく深堀りしていきます。


1.僧帽筋って?

まずはざっくりイメージから。

僧帽筋は、

  • 首の付け根(後頭部の下あたり)
  • 背骨(首〜背中の真ん中)
  • 両方の肩(肩甲骨・鎖骨のあたり)

を大きな三角形でつなぐ、**上半身をおおう「背中のえりまき」**のような筋肉です。

左右の僧帽筋を合わせると、背中に大きな「凧」や「マント」が張り付いているようなイメージ。
アメリカのクリーブランド・クリニックの解説でも、僧帽筋は姿勢を保ち、首や背中・肩を支える大きな筋肉として紹介されています。Cleveland Clinic

主な役割をざっくり言うと:

  • 頭と首を支える
  • 肩甲骨と肩を支え、動かす
  • 姿勢を支える“土台”として働く

日常生活では、こんな場面でこっそり働いています。

  • パソコンやスマホを見るとき、頭が前に落ちないように支える
  • 買い物袋やカバンを持つとき、肩が抜けないように支える
  • 立っているとき、背中が丸まりすぎないように支える
  • 深呼吸をするとき、胸郭が過度に潰れないように支える

つまり僧帽筋は、「動く」ためだけでなく「支える」ために働き続けている筋肉
だからこそ、休みなくじわじわと疲れがたまっていきやすい場所でもあります。


2.少し詳しく僧帽筋について解説

ここからは少しだけマニアックにいきます。

2-1.僧帽筋は「上・中・下」に分かれた大きな一枚布

僧帽筋は一枚の筋肉ですが、働き方の特徴から大きく3つに分けて考えることが多いです。

  • 上部僧帽筋
    首の付け根〜肩の上にかけて。
    → 肩をすくめたり、頭を支えたりする部分。
  • 中部僧帽筋
    肩甲骨の高さあたりの背中。
    → 肩甲骨を背骨側に引き寄せて、肩を後ろに引く(「胸を開く」)役割。
  • 下部僧帽筋
    背中の真ん中〜やや下あたり。
    → 肩甲骨を下げたり、外に回しながら安定させたりする役割。

ざっくり言えば、

  • 上部:肩・首を吊るロープ
  • 中部:肩甲骨を背骨に引き寄せるブレーカー
  • 下部:肩甲骨を下に引き下げるアンカー(いかり)

のようなイメージです。

2-2.どの関節・どんな動きに関わるのか?

僧帽筋は、以下のような場所をまたいでついています。

  • 頸椎(首の骨)〜胸椎(背中の骨)
  • 肩甲骨
  • 鎖骨

そのため、影響しうるのは、

  • 頸椎の動き(うなずく・振り向くなど)
  • 肩甲骨の位置と動き
  • 肩関節の動き(腕を上げる・横に広げるなど)
  • ひいては 胸郭(肋骨)や呼吸のしやすさ

まで広がっていきます。

特に大事なのが、
「肩甲骨がどう動くか」=「僧帽筋がどう働いているか」
と言ってもいいくらい、肩甲骨の動きに密接に関わる点です。

  • 上部僧帽筋+下部僧帽筋+前鋸筋(ぜんきょきん:脇の下の筋肉)
    → 腕を上に上げるときの「肩甲骨の回転」をつくるチーム
  • 中部僧帽筋+菱形筋
    → 肩甲骨を背骨側に寄せ、胸を開くチーム

このバランスが崩れると、いわゆる**「肩甲骨の動きが悪い」「肩が詰まる」**といった状態につながりやすくなります。

2-3.上部僧帽筋は「こりやすい」ことが研究でも示唆されている

2023年に発表された、慢性的な首の痛み(慢性頸部痛)の人を対象にしたレビューでは、
慢性頸部痛の人は、そうでない人と比べて“上部僧帽筋の硬さ(スティフネス)が高い”
という結果が報告されています。Frontiers

細かい測定方法は専門的ですが、要するに、

首の痛みを長く抱えている人ほど、
上部僧帽筋が「硬く・こわばった状態」になっている傾向がある

ということです。

もちろん、「僧帽筋が硬い=必ず首が痛くなる」という単純な話ではありません。
ただ、僧帽筋が“こりやすい場所”であり、症状とも関わりやすい筋肉であることは、研究からも裏付けられつつあると言えます。


3.僧帽筋のコンディションが乱れると出やすい不調

では、僧帽筋の「硬さ・弱さ・タイミングのズレ」が出てくると、どんな不調につながりやすいでしょうか。
代表的なものを挙げていきます。

3-1.首こり・肩こり・肩甲骨まわりの重だるさ

もっとも多いのがこれです。

  • 首の付け根がズーンと重い
  • 肩がパンパンに張っている
  • 肩甲骨の内側が鈍く痛い

などの症状。

構造の視点

  • 頭はボウリングの球1つ分くらいの重さ
  • これを、上部僧帽筋を中心とした筋肉が一日中支えている
  • 前かがみ・うつむき姿勢が続くと、上部僧帽筋が引き伸ばされながら頑張る状態に

神経の視点

  • 同じ筋肉にずっと力が入り続けると、血流が落ち、老廃物がたまりやすくなる
  • その状態が長く続くと、痛みを感じる神経が敏感になり、「こり感」「重さ」として自覚される

感覚の視点

  • 本来は「今ちょっと頑張りすぎだよ」というサインなのに、
    慣れてしまうと「これが普通」と脳が思い込んでしまう
  • 結果として、こりをこりとして認識しにくくなり、慢性化しやすい

2013年に北欧で行われた前向き研究では、
「仕事中の僧帽筋の“持続的な活動レベル”が高い人ほど、その後2年半のあいだに首・肩の痛みが出やすかった」
という結果が報告されています。スカンジナビア労働環境健康ジャーナル

つまり、
**「常に僧帽筋にうっすら力が入っている状態」**が続くと、
時間差で首・肩の痛みとして表に出てきやすい、ということですね。

3-2.緊張型頭痛・目の奥の重さ

上部僧帽筋は、首の後ろの筋肉群(後頭下筋群など)とも連携して、頭を支えています。

  • デスクワークが長い
  • スマホの画面を見つめる時間が長い
  • つい顎を前に突き出す姿勢になりやすい

こうした状態が続くと、

  • 後頭部〜耳の後ろ〜こめかみ
  • 目の奥の重だるさ

といった形で緊張型頭痛を引き起こしやすくなります。

これは、構造的には「頭の位置」と「僧帽筋・首の筋肉」のアンバランス、
神経的には「首まわりの筋肉からの入力が増えすぎて、脳が『痛み』として受け取りやすくなる」現象でもあります。

3-3.肩が上がりにくい・服の袖に手を通しにくい

僧帽筋、とくに中部・下部僧帽筋は、肩甲骨を適切な位置に保ち、腕がスムーズに上がるように支えています。

  • 猫背気味で、肩甲骨が前に流れやすい
  • 上部僧帽筋ばかり過剰に働き、中・下部僧帽筋がサボり気味

このようなバランスの崩れが続くと、

  • 腕を横から上げると、途中で「詰まる」
  • 服を着るときに袖に腕を通しづらい
  • 高い棚のものを取る時に肩がグキッとしそう

といった形で現れます。

肩のインピンジメント(挟み込み)などの肩関節障害では、僧帽筋や肩甲骨周囲筋の働きの偏りが関わっていることが、臨床研究でもたびたび報告されています。PMC

3-4.呼吸が浅くなる・疲れやすい

僧帽筋が過度に緊張していると、

  • 肩がすくんだまま下がりにくい
  • 胸郭(肋骨まわり)が前後方向にしか動きにくくなる

結果、**呼吸が浅くなり、「ため息が増える」「疲れやすい」**と感じる方もいます。

構造としては「胸郭の動きの制限」、
神経・感覚としては「常に軽い緊張モードが続き、自律神経が休まりにくい状態」とも言えます。


4.自分でできる“ちょいケア”と、プロに任せるライン

ここからは、僧帽筋と上手に付き合うための「日常でできること」をお伝えします。
あくまで安全な範囲のセルフケアとしてお読みください。

4-1.簡単なセルフチェック

チェック①:肩をすくめてストン

  1. イスに浅く座る or 立って、背筋を軽く伸ばす
  2. 両肩を耳に近づけるように「ぐーっとすくめる」
  3. 3秒キープしたら、息を吐きながら「ストン」と力を抜いて落とす

このときに、

  • 首の付け根や肩が「ズキッ」と痛む
  • 力を抜いても肩が下がり切らない感じがする

場合は、上部僧帽筋まわりのこわばりが強いサインかもしれません。

チェック②:腕を横から上げてみる

  1. 立位で、腕を体の横につける
  2. 親指を上に向けたまま、ゆっくりと腕を横から上げていく
  3. 耳の横まで上がるか、途中で詰まるかを確認
  • 途中(肩の高さ〜その少し上)で痛みや詰まりが出る
  • 片側だけ重く感じる

場合は、肩甲骨の動きと僧帽筋のバランスが乱れている可能性があります。

4-2.僧帽筋への“ちょいケア”エクササイズ

ケア①:肩甲骨リセット+呼吸

  1. イスに座り、軽く背筋を伸ばす
  2. 肩を「前 → 上 → 後ろ → 下」とゆっくり大きく3周まわす
  3. 最後の「下」の位置で、肩甲骨がやや下がり、胸が自然に開いた状態をキープ
  4. その姿勢で、鼻から3秒吸って、口から6秒ゆっくり吐く呼吸を5回

ポイント:

  • 肩を「力づくで引き下げる」のではなく、肩甲骨がスッと下に“戻る”感覚を探す
  • 息を吐くときに、首の後ろや肩まわりの余計な緊張が抜けていくのを感じる

これは、構造としては「肩甲骨の位置リセット」、
神経・感覚としては「僧帽筋に入っていた余計な力を一度手放す」ためのミニリセットです。

ケア②:中・下部僧帽筋を目覚めさせる壁エクササイズ

  1. 壁に背中をつけて立ち、かかとを少し離す(頭・背中・骨盤を壁に当てる)
  2. 肘を曲げて、両腕で「W」の形をつくり、手の甲と肘をできるだけ壁に近づける
  3. そのまま、ゆっくりと腕を頭の上方向に滑らせて「Y」の形に近づけていく
  4. 肩がすくまない範囲で上げたら、ゆっくり「W」に戻す
  5. これを8〜10回×2セット、痛みのない範囲で

ポイント:

  • 腕を上げるときに肩をすくめない(むしろ軽く下げる意識)
  • 動かしているのは腕だけでなく、肩甲骨が背中で下から支えられながら回っていく感覚を意識

このエクササイズは、普段サボりがちな中・下部僧帽筋を呼び起こし、
上部僧帽筋に集中しがちな負担を分散するのに役立ちます。

4-3.運動が僧帽筋の痛みに効くことを示した研究

首・肩のこりや僧帽筋の痛み(いわゆる「僧帽筋筋痛」)に対して、適度な筋力トレーニングが有効であることも、研究で示されています。

2013年に発表されたデンマークの研究では、
デスクワーク女性を対象に1日わずか数分の首・肩の抵抗トレーニングを10週間続けたところ、

  • 僧帽筋まわりの筋力が向上し
  • 首・肩の痛みの強さが約40%減少した

という結果が報告されています。Wiley Online Library

つまり、
**「動かすと悪くなりそうだから、なるべく動かさない」**ではなく、
「正しく・少しずつ動かしてあげること」が、むしろ僧帽筋のリハビリになる
と考えられます。

4-4.プロに任せるラインの目安

次のような場合は、セルフケアだけで粘らず、一度専門家に相談していただくことをおすすめします。

  • 腕や手にしびれが出る・広がっていく
  • ボタンが留めにくい、握力が落ちたなど、力が入りにくい感覚がある
  • 夜間、うずくような痛みで目が覚める
  • 首を動かすと、めまい・吐き気・ふらつきが出る
  • 最近転倒した・交通事故にあった、などのはっきりしたケガのあとから痛みが続いている
  • 持病(骨粗鬆症・リウマチ・がんなど)があり、痛みの原因がはっきりしない

こういったサインがあるときは、
まずは整形外科などの医療機関で検査を受け、必要に応じて

  • 理学療法士によるリハビリ
  • 信頼できる整体・運動指導

などを組み合わせていくのが安心です。


5.まとめ

最後に、今日の内容をコンパクトに整理します。

  • 僧帽筋は「背中のえりまき筋」
    • 首の付け根〜肩〜背中の真ん中までをつなぐ、姿勢・頭・肩を支える大きな筋肉
  • 上・中・下の3つのエリアが、それぞれ違う役割を担っている
    • 上部:頭と肩を吊るロープ
    • 中部:肩甲骨を背骨に寄せるブレーカー
    • 下部:肩甲骨を下に引き、腕を上げる土台をつくるアンカー
  • 僧帽筋のコンディションが乱れると出やすい不調
    • 首こり・肩こり・肩甲骨の内側の重だるさ
    • 緊張型頭痛や目の奥の重さ
    • 肩が上がりにくい、服の袖が通しにくい
    • 呼吸が浅い・なんとなく疲れやすい
  • 構造 × 神経 × 感覚のバランスが大事
    • 構造:頭や肩を支えるポジション・姿勢の問題
    • 神経:筋肉からの「がんばりすぎてますよ」という信号が増えすぎる
    • 感覚:それに慣れすぎると、「これが普通」と感じてしまい、こりが慢性化
  • 日常でできること
    • 肩甲骨リセット+呼吸で、僧帽筋に入っている余計な力をいったん手放す
    • 壁を使った「W→Yエクササイズ」で、中・下部僧帽筋を目覚めさせる
    • 長時間同じ姿勢を続けない(1時間に1回は立ち上がる・肩を回すなど)

僧帽筋は、がんばり屋さんで、文句を言わずに私たちの頭と肩を支え続けてくれている筋肉です。
だからこそ、「こり」や「重さ」という形で、ようやく不満を表明してくるとも言えます。


6.おわりに

年齢を重ねると、

  • 「この首こりはもう一生ものかな…」
  • 「肩こりがない人なんているの?」

と、半ばあきらめモードになってしまうこともあります。

でも、理学療法士として多くの方のからだに触れてきた感覚から言うと、
**僧帽筋まわりは「何度でもやり直しがきく場所」**です。

  • 姿勢のクセを少し見直す
  • 呼吸の深さを取り戻す
  • 中・下部僧帽筋など、サボっていた筋肉を少しずつ目覚めさせる

こうした小さな積み重ねで、
「気づいたら、あのガチガチの肩こりが前ほど気にならなくなってきた」
という変化は、年齢に関係なく十分に起こり得ます。

一人で全部抱え込む必要はありません。

セルフケアで届かない部分、
自分ではよく分からない「からだの使い方のクセ」の部分は、
理学療法士や信頼できる専門家に任せてしまっても大丈夫です。

僧帽筋とうまく付き合えるようになると、
首・肩だけでなく、姿勢・呼吸・気持ちの軽さまで、少しずつ変わっていきます。

「もう年だから」と線を引いてしまう前に、
今日ご紹介したような**小さな“リセット”**から、からだとの関係を少しずつ整えていきましょう。

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