Q.肩をもんでもすぐ戻るのは、なぜ?【深堀りQ&A】
A.筋肉だけをほぐしても、“こりをつくる感覚のパターン”が変わっていないからです。
一時的に楽になるのに、また同じ場所が重くなる──。
その背景には、筋肉の問題だけでなく、「脳がその姿勢や力の入り方を“普通”だと認識している」という深い仕組みがあります。
🔍なぜ肩こりは“もんでも戻る”の?
肩をもむと血流が一時的に良くなり、筋肉の緊張も緩みます。
しかし時間が経つと、脳は元の“感覚パターン”に戻そうとします。
これは、脳が身体の位置や力の入り方を「学習」してしまっているからです。
たとえば、いつも右肩に力を入れてデスクワークをしている人は、
「右肩に少し力が入っている状態=自然な姿勢」として脳が記憶してしまいます。
そのため、いくら筋肉をゆるめても、感覚の記憶が変わらない限り、身体は再びその“慣れた状態”に戻ろうとするのです。
この現象は「運動学習」や「感覚記憶」と呼ばれ、
リハビリテーションの分野でもよく知られています(Shadmehr & Krakauer, Neuron, 2008)。
つまり、筋肉をほぐすだけではなく、**感覚と神経の再学習(リセット)**が必要なのです。
💡感覚をリセットするには?
では、どうすれば脳に“新しい感覚”を覚えさせられるのでしょうか。
ポイントは、「動きながら感じ直す」ことです。
・もんだ直後に、肩甲骨を大きくゆっくり動かす
→ これにより、脳が「この位置が心地よい」と再学習しやすくなります。
・呼吸を深めながら首を回す/肩を回す
→ 呼吸と動きを連動させることで、自律神経が整い、筋緊張が戻りにくくなります。
・“もみ返し”が出やすい人は、強い刺激で交感神経が興奮しているサイン。
→ 優しい刺激や、体を「支える感覚」を取り戻すアプローチの方が効果的です。
2020年の報告(Aboodarda et al., Frontiers in Physiology)でも、
強いマッサージよりも“軽い圧刺激+自発的な動き”の方が、
筋膜の粘弾性を改善し、持続的なリリース効果をもたらすと示されています。
🧩「筋肉」ではなく「神経と感覚」を整える発想
肩こりを本質的に改善したいなら、筋肉ではなく**「神経の再教育」**を意識しましょう。
もむことで筋肉が緩むのは「物理的変化」ですが、
動きながら感覚を再入力するのは「神経的変化」です。
身体は、何度も繰り返される感覚パターンを「正しい」と学習します。
だからこそ、施術でもセルフケアでも、**“感じる→動く→また感じる”**のサイクルを作ることが大切です。
これにより、脳は“新しい心地よい位置”を記憶し、こりが戻りにくい状態へ変化します。
🧠まとめ
肩をもんでもすぐ戻るのは、筋肉の問題ではなく「感覚の記憶」が原因。
形を変えるだけではなく、“感じ方”を変えること。
もむことよりも、「動かしながら感覚を思い出すこと」。
それが、肩こりを根本から変える最も確かな道です。
